先に進む(亀有)

大学時代の友人に、羨ましいと思う子がいた。私の通っていた大学はファッションを学ぶための学校だった。学科によって学ぶことは違うのだけれど、彼女の熱量やファッションにかける想いというものが、他の子とは違っていて、私の熱量なんか到底及ばない子だ…

ゆくえ(羽田空港)

悲しいとき、心がぽっかりするとき、羽田空港に私は立っている。その悲しみを忘れるためのように、はたまた、悲しみを深めるために。どこかへ行って、どこかへ帰っていく、ここではないどこか。羽田空港は銀色に光っていて、つめたいにおいがする。かつて好…

i(ハワイ)

「新入社員の君たち全員で、社員旅行、ハワイに行ってきなさい!」 副社長が笑顔で言ったそのとき、真っ先に、どうしたら休めるのか、どうしたら行かないで済むのか、頭をフル回転させたのは私だけだっただろう。歓声があちこちで上がるなかで、そのイベント…

繭(東中野)

繭のなかにいるみたい。 大切な漫画『cocoon』(今日マチ子)の中に出てくる台詞だ。 東中野に住んでいたとき、まるで、繭の中にいるみたいだった。 いくつかの出来事が重なって、わたしは荻窪の家になかなか、というか、ほとんど帰ることができなくなった。…

拠点(新宿)

東京に来て、どこを拠点に生活するか、人々は分かれる。渋谷。池袋。そして新宿。多分大まかにまずこの三つが挙げられると思う。たくさんの路線があって、たくさんの人が集まる場所。その中でも群を抜いて人が多いのが、新宿。人も、ものも、ビルも。何もか…

道のり(恵比寿・広尾)

夜、青い歩道橋をゆっくり歩いた。数年前、深夜までやってるカフェで、コーヒーとワインを交互に飲む遊びをして、何度も朝まで話した子がいる。いつも互いの家の中間地点だと思われる、白い歩道橋まで歩いて解散した。ある冬の思い出が、歩道橋というもので…

my all, my room(荻窪)

国分寺の寮を大学2年の冬に出ることにした。確か、2月か3月だった。門限が厳しいことと学校まで1時間ほどかかっていたことが退寮する大きな理由だった。いざ寮を出るとなると、家電や家具を揃えないといけず、家電は量販店と無印良品に、家具はIKEAに買いに…

ごはんの会(国分寺)

上京して、まもなく10年になる。嘘だ、と思う。東京に来て10年。そんな膨大な時間が自分のなかで流れていたこと、それが漠然と、自然と、流れていたことに、ただ驚く、という言葉でも、納得できない、という言葉でも、なにか違うものがある。けれど、長崎に…

あふれる切なさを、僕らは(品川)

もし、いま、自分が死んだらどうなるんだろう、とよく考える。携帯の見てほしくないところ(メルカリで買ったものとかAmazonの欲しいものリストとか)見られるのかな、いやだな。死体はどんな状況なのかな、きれいに残っているのかな。たくさん書いてきた文…

あなたはきっとわたしの星(二子玉川)

大学を卒業して、新卒で会社に入った。やりたいことが明確にあって入社を決めたが、最初の数年は勉強だと思って、どこの部署でも自分がやれることを全力でやると決めていた。配属先は二子玉川だった。ふたこたまがわ‥。予想もしていなかった場所だった。一度…

あたらしい海(鳥取)

上京したのは9年前、大学への進学が理由だった。長崎から都会に出るにはいくつかの段階があって、ひとつは福岡だった。高校の友人たちも、兄も、福岡の大学に進学していた。いとこも福岡にいるし、長崎へも帰りやすい。そのため両親は福岡の学校を勧めたが、…

ダイヤの見える街(長崎)

小学3年生の頃、学校に行くのが毎日憂鬱だった。友人関係も上手くいってなかったけれど、担任の先生に嫌われていたことが、一番憂鬱な理由だった。 A先生は男の先生で、とても怖かった。教卓を叩いたり、教科書を投げたり。10年以上前のことなのに鮮明に覚え…